【股関節痛の始まりはどこ?筋肉?関節?股関節唇?】痛みのしくみ④
長いこと股関節痛に悩まされていると、股関節痛のことをいろいろ知りたくなってくる人もいると思います。そんな人のために、ちょっとマニアックに股関節痛のしくみについて、お話ししようと思います。今回は、股関節痛の始まりはどこか、ということについてです。
記事【股関節痛が出る基本的なメカニズム、3つの刺激と3本の神経】痛みのしくみ①でもお話ししていますが、股関節痛は基本的に、侵害受容器という痛みセンサーが、侵害刺激という身体に害を及ぼす刺激をキャッチすることで出ます。
つまり、股関節痛の始まりは「侵害受容器」ということです(ただしこれは、痛みの原因が損傷や炎症の場合のみです)。
そして、この侵害受容器は、神経の先端の自由神経終末と呼ばれるところに存在しています。なので、別の言い方をすると、股関節痛の始まりは「自由神経終末」ということになります。
で、この自由神経終末は、身体のいろんな組織に入り込んでいて、侵害刺激をキャッチして身体に害が及ぼされていることを私たちに知らせてくれようとしています。
では、この自由神経終末は、いろんな組織のどこに入り込んでいるのでしょうか?この自由神経終末が存在する場所が分かれば、股関節のどこに問題があるのかが分かってきます。
このことについて、股関節痛に関係する主な組織について、お話ししていきます。ついでに、腰と膝に関係する組織についてもお話しします。今回ピックアップする組織は、次になります。
- 皮膚
- 筋肉
- 骨
- 腱
- 関節
関節については、さらに個別に、次の組織についてお話しします。
- 股関節唇
- 椎間板
- 半月板
以降のお話しは、かなり専門的でマニアックなので、結論だけ知りたい人は、最後の「まとめ」だけを読んで下さいね。ちなみに、画像のイラストは全て私が書いたものです(^^;)。
目次
1.皮膚の痛み
まずは皮膚の構造について、説明していきます(上図参照)。皮膚は構造上、表層から順に、次のように区分されます。
表皮⇒真皮⇒皮下組織
さらに表皮は、表層から順に、次のように区分されます。
角質層⇒顆粒層⇒有棘層⇒基底層
場所によって異なりますが、皮膚の厚さは約0.5~4.0mm、表皮の厚さは約0.2mmです。ちなみに、表皮には毛細血管が存在しないため、浅い表皮の傷、表皮剥離では出血しません。
この皮膚においては、自由神経終末は、皮下組織~表皮の基底層まで分布が確認されています。
表皮の基底層より表層では自由神経終末の分布はないので、皮膚に角質がはがれ落ちるような刺激(例えば、アルコール綿で皮膚をこするような刺激)を加えても、痛みを感じることはありません。
ということで、皮膚では侵害受容器は表皮の基底層までしか存在しておらず、そこまで刺激が伝わることで初めて、痛みを感じるようになります。
2.筋肉の痛み
まずは筋肉の構造について、説明してきます(上図参照)。ヒトの筋肉は3つに分類され、骨格筋、心筋、平滑筋と呼ばれています。
骨格筋は、腕や脚などを動かしたりするもので、一般的に「筋肉」といわれているものは、この骨格筋のことを指していると思われます。
心筋は、心臓を動かしている筋肉です。
平滑筋は、腸や血管などを動かしている筋肉です。
骨格筋は自分の意思で力を入れることはできますが、心筋と平滑筋は自分の意思では力を入れることはできません。
骨格筋の痛み
股関節痛に関わる筋肉は主に骨格筋ですので、ここからは骨格筋に絞ってお話ししていきます。
骨格筋は、筋線維とよばれる細胞と、それを包む筋膜で構成されています。
筋線維の中の大部分は、筋原線維とよばれる収縮装置で占められています。この筋原線維に力が入ることで、骨格筋に力が入るということになります。
筋膜には主に3種類あり、筋内膜、筋周膜、筋上膜とよばれています。筋内膜は、個々の筋線維を包むものです。筋線維が数十本~数百本の束になったものを筋束といいますが、筋周膜はこの筋束を包むものです。筋上膜は、筋束が束になった筋肉全体を包むものです。
この筋肉においては、自由神経終末は、筋膜や骨格筋内の血管壁に多く分布しています。また、この痛みを伝える神経の中には、虚血中の収縮により強い反応を示すものが存在することが確認されています。
ということで、筋肉では侵害受容器は筋膜や血管壁に存在しており、そこで侵害刺激を感知しています。そして、血流の悪い筋肉は痛みが出やすくなる、と考えられます。
3.骨の痛み
まずは骨の構造について、説明してきます(上図参照)。骨は、骨質、骨膜、骨髄、軟骨質から構成されています。
骨質は、骨の基質(中身)で、緻密骨(皮質骨)と海綿骨の2種類があります。緻密骨は骨の表層に存在する、極めて硬い骨です。海綿骨は骨の内側に存在し、網目状の構造物である骨梁を形成しています。
骨膜は、骨の表面を覆い保護している結合組織で、血管や神経に富んでいます。
骨髄は、骨の内部の空洞(骨髄腔)を満たしている軟らかい組織です。
軟骨質は、弾性力に富む組織で、血管や神経は存在しません。関節軟骨などがこれに当たります。
骨においては、自由神経終末は、骨膜に高密度に分布し、骨髄や骨質(緻密骨と海綿骨)にも存在していますが、軟骨質には存在していません。
したがって、とても重要なことですが、関節軟骨がすり減ったり損傷したりしても、痛みを感じることはありません(このことに関しては、記事【股関節の隙間が狭い、軟骨のすり減り、手術で股関節痛は治るのか?】痛みのしくみ⑤で詳しくお話ししています)。
ということで、骨では侵害受容器は、軟骨質以外の、骨質、骨膜、骨髄に存在しており、そこで侵害刺激を感知しています。
4.腱の痛み
まずは腱の構造について、説明してきます(上図参照)。腱は、筋肉の両端に存在する強靭な結合組織で、骨に付着しています。
筋肉との結合部(筋腱移行部)では、筋細胞と強固に結合しています。骨との付着部では、骨膜の結合組織とよく癒合し、一部は皮質骨と強固に付着しています。
腱は、一般的に円形に近いひも状の構造ですが、膜状に広がったものもあり、これを腱膜といいます。
腱や腱膜には、自由神経終末が高密度に分布しています。
5.関節の痛み
まずは関節の構造について、説明していきます。関節とは、2個またはそれ以上の骨が連結する部分のことです。
骨が連結する部分を関節とよんでいるので、関節には、動くものもあれば、動かないものもあります。関節を分類すると、以下のようになります(下図参照)。
動かない、もしくは動いてもごくわずかな関節を、不動関節もしくは不動性結合といいます。
一方、よく動く関節を、可動関節もしくは滑膜性関節といいます。一般的に「関節」といえば、滑膜性関節のことを指していると思われます。
不動性結合は、線維性連結、軟骨性連結、骨性連結に分類されます。
線維性連結は、骨が線維性結合組織というもので連結されているものです。例えば、靱帯だけで連結されているものや、歯と歯茎の連結などです。
軟骨性連結は、骨が軟骨で連結されているものです。軟骨の種類によって、硝子軟骨結合と線維軟骨結合に分類されます。線維軟骨結合の例としては、背骨にある脊柱椎間板連結が挙げられます。
骨性連結は、骨が骨で連結されているものです。多くの場合、軟骨性連結から転化し、複数の骨が一つの骨になったものです。例として、骨盤の骨が挙げられます(骨盤の左右片方の骨を寛骨といい、寛骨はもともと腸骨、坐骨、恥骨に分かれています)。
可動関節(滑膜性関節)の痛み
滑膜性関節は、関節包というもので骨と骨が袋状に包まれて連結されているものです(上図参照)。
関節包は、内側の滑膜と、外側の線維膜に分けられます。関節包の中(関節腔)は、滑膜から分泌される滑液という液体で、満たされています。この滑液は、関節が動くとき、潤滑剤の役目を果たします。
滑膜は伸張性を有していますが、線維膜は伸張性に乏しいです。滑膜性関節という名前は、滑膜が存在する関節ということが由来だと思われます。
多くの関節には、靱帯が存在します。靱帯は骨と骨を連結する線維性結合組織です。靱帯は、関節の安定性を高め、運動方向を制御する役割を担っています。
靱帯は、栄養や酸素を供給する血管が非常に少ない組織です。そのため、靱帯が断裂すると、その自然治癒は期待できず、再建するには手術が必要となります。
関節包の中にある骨の先端には、関節軟骨が存在します。「3.骨の痛み」でもお話ししましたが、関節軟骨には、血管や神経が存在しません。そのため、関節軟骨への栄養供給は、滑液によりなされます。
その栄養供給は、関節運動によってなされます。関節が動くことにより、新鮮な滑液が関節軟骨に吸収され、同時に古い滑液が関節軟骨から排出されます。つまり、関節軟骨は、適度な関節運動によってその栄養状態が保たれ、その構造と機能が維持されているのです。
関節においては、自由神経終末は、関節包全域、靱帯、血管壁などに存在しますが、関節軟骨には存在しません。
したがって、とても重要なことなので再度お伝えしますが、関節軟骨がすり減ったり損傷したりしても、痛みを感じることはありません(このことに関しては、記事【股関節の隙間が狭い、軟骨のすり減り、手術で股関節痛は治るのか?】痛みのしくみ⑤で詳しくお話ししています)。
ということで、関節では侵害受容器は、関節軟骨以外の、関節包全域、靱帯、血管壁などに存在しており、そこで侵害刺激を感知しています。
関節の痛みの特徴
そして、関節の侵害受容器は、次の3つに分類できます。
- 侵害的な圧刺激や過度な関節運動に反応する高閾値機械受容器
- 強い圧刺激にのみに反応し、関節運動には反応しない侵害受容器
- 正常な関節では、どのような機械的刺激にも反応を示さない非活動性侵害受容器
正常な関節では、1の高閾値機械受容器のみが反応します。高閾値機械受容器とは、機械的刺激でも強い刺激のみをキャッチする侵害受容器です。
一方、関節に炎症が生じると、1~3の全ての侵害受容器が反応するようになると言われています。
したがって、関節で炎症が起こると、正常では反応しない侵害受容器が反応し、痛みが増強することになると考えられます。
ここからは、関節の個別の組織についてお話ししていきます。
5-1.股関節にある股関節唇の痛み
股関節には、股関節唇というものが存在します。これは、股関節の骨盤側に付いているもので、関節の深さを補うなどの役割を果たしています。股関節唇は、密性結合組織と線維軟骨でできています。
この股関節唇には、神経が存在するようです。ですので、股関節唇を損傷した場合は、痛みが出る可能性はあると考えられます。ただ、股関節唇については、まだ良く分かっていないことが多いようです。
5-2.腰にある椎間板の痛み
腰には、腰椎椎間板というものが存在します。これは、腰の骨(腰椎)の間にあるもので、腰の骨を繋げたり、腰にかかる力を和らげるクッションの役割を果たしています。この椎間板は、外側の比較的硬い線維輪と、中心部にある軟らかい髄核で構成されています。
この椎間板には、神経や血管がありません。ですので、椎間板が損傷しても痛みを感じることはありません。
5-3.膝にある半月板の痛み
膝には、半月板というものが存在します。これは、膝にかかる力を和らげるクッションの役割や、関節の適合性を良くするなどの役割があります。半月板の内側2/3は線維軟骨で、外側1/3は密性結合組織でできています。半月板には、内側半月板と外側半月板の2種類があります。
この半月板においては、半月板の外側1/3のところには神経や血管があるようです。ですので、そこを損傷すると痛みが出る可能性はあります。
逆に言えば、半月板の内側2/3のところには神経や血管はなく、そこを損傷しても痛みは出ません(このことに関しては、記事【股関節の隙間が狭い、軟骨のすり減り、手術で股関節痛は治るのか?】痛みのしくみ⑤で詳しくお話ししています)。
関節の痛みのまとめ
ということで、関節では侵害受容器は、関節包、靱帯、血管壁、関節唇、半月板の外側1/3に存在しており、そこで侵害刺激を感知しています。
一方、関節軟骨、椎間板、半月板の内側2/3には侵害受容器が存在しておらず、これらがすり減ったり損傷したりしても、痛みは出ません。
そして、関節で炎症が起こっているときは痛みが増強する、と考えられています。
まとめ
今回のお話しをまとめていきます。まず、痛みの始まりである侵害受容器の存在する場所は、以下になります。
- 皮膚:表皮の基底層より深部
- 筋肉:筋膜、血管壁
- 骨:骨膜、骨髄、骨質
- 腱:腱、腱膜
- 関節:関節包、靱帯、血管壁、関節唇、半月板の外側1/3
そして、以下の場所には侵害受容器が存在しません。
- 関節軟骨、椎間板、半月板の内側2/3
このことに関しては、記事【股関節の隙間が狭い、軟骨のすり減り、手術で股関節痛は治るのか?】痛みのしくみ⑤で詳しくお話ししています。
また、痛みには以下の重要な特徴があります。
- 血流の悪い筋肉は、痛みが出やすくなる
- 関節で炎症が起こっているときは、痛みが増強する
ということで、痛みの始まりである侵害受容器が存在する場所、すなわち自由神経終末が存在する場所について、お話ししてきました。
このように、侵害受容器は、基本的には全身の至るところに存在しますが、まれに存在しないところがある、ということが分かります。
股関節痛について言えば、股関節の軟骨がすり減っていても、つまりレントゲン写真などで股関節の隙間が狭くなっていても、それが原因で痛みが出ることはない、ということです。
そして、股関節の周囲の筋肉の血流が悪いと、その筋肉に痛みが出やすくなって、それを股関節痛として感じるようになったり、股関節内で炎症が起こっていると、痛みが強くなったりする、ということです。
今回はかなりマニアックな内容でしたが、股関節痛の本当のことを少しでも知って頂ければ幸いです。(^^)/
解剖図:Michael Schünke 他:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系,医学書院.2007.
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