【さする、つねる、で痛み和らぐ?モルヒネや脳内麻薬、体内の鎮痛システム大公開】痛みのしくみ⑫

今回の記事では、私たちの身体に備わっている、痛みを和らげるシステムについてお話ししていきます。このシステムを利用して、痛みを適切にコントロールすることも、痛みを長引かせないようにするためには、必要な場合もあります。

今回の記事も、やや専門的な内容があり、難しいところもあるかもしれません。自分で痛みを治すために知っておいて頂きたい内容は、「内因性オピオイド系」と「まとめ」に書いてある内容ですので、ここだけでも読んで頂ければと思います。(^^)/

また、この記事では、様々な専門用語が出てきますが、それらの言葉の意味については、【痛みを自分で治すために知るべき3つの原因と根本的なメカニズム】痛みのしくみ①や、【痛みの神経と脳、一次痛と二次痛、外側系と内側系って、何だ?】痛みのしくみ⑪などをご覧下さい。

広汎性侵害抑制調節

私たちは日常的に、痛みが出ると、思わずその部分をさすったり、他の部分をつねったりして、痛みを和らげようとします。そして、実際に痛みが和らぐことを体験します。

この、痛いところをさすると痛みが和らぐ現象を説明しようとして、1965年にMelzackとWallという人物によって、「gate control theory(ゲートコントロールセオリー)」という痛み抑制理論が提唱されました。

この理論は、当時としては大変斬新なもので、その後の痛みの研究や治療の新しい時代を拓くものとなりました。しかし、その後いくつかの誤りが指摘され、否定的な実験事実が確認されたため、科学的価値は低いとされています。

一方、痛いところとは別のところをつねったりすると痛みが和らぐ現象を説明しようとして、1979年にLe Barsという人物らによって、「広汎性侵害抑制調節(DNIC:diffuse noxious inhibitory controls)」という痛み抑制理論が報告されました。これは、本来の痛みが、別の痛みによって抑制される、という現象です。

彼らは、動物実験で、全身のあらゆる部位に加えた侵害刺激C線維刺激)により、脊髄の広作動域ニューロン二次侵害受容ニューロン)の興奮性が抑制されることを示しました。つまり、本来の痛みがあるところとは別のところに加えた痛み刺激が、本来の痛み刺激の情報伝達を抑制し、本来の痛みが和らぐ、ということです。

この「広汎性侵害抑制調節」は、鍼灸や経皮的末梢神経電気刺激(TENS:transcutaneous electrical nerve stimulation ※病院のリハビリでよく使われている電気刺激装置)などの、身体の表面になんらかの刺激を加える痛み治療法による鎮痛メカニズムの一つと考えられています。

彼らは侵害刺激を用いての実験結果を報告していますが、2002年に別の人物が示した注目すべき実験結果があります。それは、非侵害性の刺激(痛みを感じない刺激でも、痛みが出ているところから離れたところを刺激すると、痛みが抑制されるというものです。

この実験では、例えば、手を温水に浸していると、温水に浸していない場合に比べて、その手から離れている場所(例えば足など)の痛みが弱くなりました。

痛いときに、さすったりつねったりすると、痛みが和らぐのは、実験でも確かめられていて、そのメカニズムも明らかになってきています。痛いときに、さすったりつねったりすることは、決して無駄なことではないようですね。(^^)/

痛みが和らぐ現象は、さすったりつねったりして身体の外から刺激を与える方法以外にも、身体の中の神経の働きなどによっても起こります。主に、「下行性疼痛抑制系」や「内因性オピオイド系」などがあります。

下行性疼痛抑制系

下行性疼痛抑制系」とは、脳幹から脊髄に向かって下行する神経によって、脊髄後角でのシナプス伝達を抑制し、痛み刺激二次侵害受容ニューロンに伝わらないようにして、痛みを和らげるものです。1979年に発見されました。

図1:シナプス

シナプスは、【痛みの神経と脳、一次痛と二次痛、外側系と内側系って、何だ?】痛みのしくみ⑪で説明したように、神経がバトンタッチするところです(図1)。このバトンタッチのしくみについて、少し詳しくお話しします。

図2:シナプス伝達

シナプスでのバトンタッチは、伝達物質という化学物質をバトンにして、それが前の神経から後の神経に受け渡されることにより行われます。

前の神経には、伝達物質を蓄えているところ(シナプス小胞)があり、電気刺激がそこに到達すると、その伝達物質が後の神経に向けて放出されます。後の神経には、その伝達物質を受け取る受容体があり、その伝達物質が受容体にくっつくと、それが電気刺激に変換され、その電気刺激が後の神経を伝わっていきます(図2)。このようにして、神経の間で情報のやりとりが行われています。

図3:下行性疼痛抑制系

さて、「下行性疼痛抑制系」に話を戻します。この脳幹から脊髄に向かって下行する神経は、抑制性ニューロンと呼ばれています。この抑制性ニューロンが、脊髄後角に伝達物質を放出し、一次侵害受容ニューロン二次侵害受容ニューロンのシナプス伝達を抑制します。これによって、痛み刺激二次侵害受容ニューロンに伝わりにくくなり、痛みが緩和されていくことになります(図3)。

この抑制性ニューロンが放出する伝達物質には、ノルアドレナリンセロトニンの二つがあります。それぞれの伝達物質が放出される神経経路は、ノルアドレナリン系、セロトニン系と呼ばれています。ノルアドレナリン系、セロトニン系ともに、脳幹中脳から始まります。

ちなみに、この抑制性ニューロンは、中脳から脊髄後角に一本の神経で直接入っているのではなく、途中の脳幹で別の神経とシナプス結合し、その神経が脊髄後角に入っています。

この「下行性疼痛抑制系」を利用して、痛みを和らげる薬がいくつか開発され、現在の医療で使われています。

①モルヒネ、オピオイド

これらの薬は中脳を刺激して(中脳にある受容体に結合して)「下行性疼痛抑制系」を活性化させます。その結果、痛みが和らいでいきます。

モルヒネとは、アヘンに含まれているアルカロイド(窒素原子を含み、塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称)で、麻薬のひとつです。鎮痛・鎮静薬として様々な痛みの軽減に有効ですが、依存性が強い麻薬の一種のため、各国で法律により使用が厳しく制限されています。医療においては、癌による痛みをはじめとした強い痛みを和らげる目的で使用されています。適切な治療法に従って使用した場合は、依存は起こらないとされています。

オピオイドとは、オピオイド受容体に結合する物質の総称です。オピオイドの主要な作用は、鎮痛作用です。モルヒネオピオイドのひとつです。オピオイド受容体は、歴史的にはモルヒネが結合する受容体として発見されたので、モルヒネ受容体とも呼ばれています。

②選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

これらの薬は、抑制性ニューロンの伝達物質であるセロトニンノルアドレナリンを、脊髄後角に長時間漂わせてそれらの濃度を高くすることにより、一次侵害受容ニューロン二次侵害受容ニューロンとのシナプス伝達の抑制を強化し、痛みを和らげます。

図4:再取り込み阻害薬

神経から放出された伝達物質は、通常その神経に回収(再取り込み)されますが、再取り込み阻害薬とは、この回収(再取り込み)過程を阻害する薬のことです(図4)。この働きによって、シナプスでの伝達物質の濃度が高くなっていき、その伝達物質の作用が強化されていくことになります。

ちなみに、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)とも、もともとは抗うつ薬として開発された薬です。

内因性オピオイド系

内因性オピオイド系」とは、内因性オピオイド(身体の中で作られるオピオイドオピオイド受容体に結合させることで、痛みを和らげるものです。

オピオイドは、先ほど少しお話ししたように、中脳オピオイド受容体と結合して「下行性疼痛抑制系」を活性化させますが、オピオイドの作用はそれだけではありません。オピオイド受容体は、中脳にあるだけではなく、中枢神経系に幅広く分布し、末梢神経にも存在しています。そして、痛みの神経経路の途中にあるオピオイド受容体オピオイドが結合すると、痛み刺激が伝達されにくくなり、その結果、痛みが和らいでいくようになります。

ちなみに、オピオイドは、結合する受容体によって、エンドルフィン系、エンケファリン系、ダイノルフィン系に分類されます。

内因性オピオイドの分泌

マラソンなどで長時間走り続けていると苦しさを通り越して気分が高揚してくる「ランナーズハイ」や、スポーツをしたり戦ったりしているときに痛みを感じなくなる現象がありますが、これは内因性オピオイドが分泌されているために起こるものです。つまり、内因性オピオイドは、苦しいときや、ストレスがかかっているときに分泌される、ということです。

ストレス下で痛みを感じなくなる現象は、ストレス鎮痛と呼ばれています。これは、生命が危機的な状況にさらされたとき、痛みによって行動を制限させるより、痛みを感じないようにしてパフォーマンスを上げ、生命の存続を優先させようとするための仕組みではないかと考えられます。

また、内因性オピオイドは、美味しいものを食べたときや、性行為のときなどにも分泌されます。他にも、居眠りをしているときや、恋をしているとき、笑っているときなどにも分泌されます。要は、欲求が満たされたときや、心地良いときに分泌される、ということです。

この内因性オピオイドは、モルヒネの数倍の鎮痛効果があり、「脳内麻薬」とも呼ばれています。

鍼治療プラセボバイオフィードバック療法によって自己誘導される鎮痛は、内因性オピオイドが体内で放出されるために起こります。プラセボとは、偽物の薬のことで、本物の薬のような外見だが薬としての効果がないものです。バイオフィードバック療法とは、自律神経系の情報(心拍数や血圧など)を利用し、自分の意思によって心身の状態をコントロールする治療法です。

まとめ

以上のように、私たちの身体には、痛みを和らげるしくみがいくつか備わっています。他にも、「脊髄内抑制系」や「内因性カンナビノイド系」といったものがあります。

痛みは不快なものですが、警告信号という意味で私たちが生きていくためには必要不可欠なものです。しかし、痛みを感じている時間が長いほど、感じている強さが強いほど、痛みは長引きやすくなっていきます。ですので、必要以上に痛みを感じないようにするために、以上のような鎮痛手段を取った方が良い場合もあります。

ただし、薬による鎮痛手段は、可能な限り取らない方が良いと思います。なぜなら薬は、心身の自然で全体的なバランスを、破壊してしまうからです(その薬がないと機能しない身体になってしまい、全身的に状態が悪化していってしまう)。

私のおススメは、気分が良くなること、心地良いことをして、内因性オピオイドを大量に分泌させる鎮痛手段です。(^o^)/

ということで、長引く痛みを治していくために、ここでお話しした鎮痛システムも利用したりして、痛みを適切にコントロールしていきましょうね。(^^)/

〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.
沖田実,松原貴子:ペインリハビリテーション入門,三輪書店.2019.

 

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