【股関節の隙間が狭い、軟骨のすり減り、手術で股関節痛は治るのか?】痛みのしくみ⑤
股関節痛が続いて、病院でレントゲン写真を撮ってもらい、お医者さんから「関節の隙間が狭くなってますね。これが痛みの原因かもしれません」と言われたりしたことは、ないでしょうか?
これは、「関節の隙間が狭くなっている⇒関節軟骨がすり減っている⇒痛みが出る」という理屈での説明だと思われますが、このようなお医者さんの説明は、正確ではありません。
なぜなら、関節軟骨には神経や血管がないので、すり減りそのものでは、痛みは出ないからです。このことは、記事【股関節痛の始まりはどこ?筋肉?関節?股関節唇?】痛みのしくみ④でお話ししました。
このように、お医者さんの説明には、少し注意して聞いた方が良いものがあります。股関節痛そのものとは関係がなくなってしまいますが、この関節軟骨以外では、例えば、神経圧迫、半月板損傷、半月板すり減りなどです。
記事【股関節痛が出る基本的なメカニズム、3つの刺激と3本の神経】痛みのしくみ①でもお話ししていますが、痛みは、神経の先端にある侵害受容器(痛みセンサー)が、侵害刺激(痛み刺激)をキャッチして、その刺激が脳に伝わることで出ます。
つまり、痛みが始まる場所は侵害受容器のあるところで、逆に侵害受容器のないところでは痛みは始まらないのです。このことは、非常に重要なことです。このこととお医者さんの説明を照らし合わせると、矛盾することがあったりするのです。
今回の記事では、この矛盾が多い、関節軟骨のすり減り、神経の圧迫、半月板の損傷とすり減りについて、実際のところをお話ししていきます。
股関節痛とは関係のない話も多いですが、「お医者さんの言っていることが全てではない」ということを示す具体例ですので、痛み治療の現状を知るという意味で、読んで頂ければと思います。
目次
1.関節軟骨のすり減りについて
関節軟骨に侵害受容器はありません。ですので、関節軟骨がすり減っても、痛みが出ることはありません。これが、事実です。
ただ、すり減って分離した関節軟骨の破片が、関節内にある滑膜を(関節包の内側)傷つけ、炎症が発生した場合は、その炎症の痛みが出る可能性はあります。
この場合、自然治癒力が高ければ、患部を安静にしておけば炎症は治り、痛みも消えていきます。
自然治癒力が高くなくても、患部を安静にしつつ自然治癒力を高めていけば、炎症は治り、痛みも消えていきます。
一方、自然治癒力が低いままだったり、患部を安静にせず激しく動かしたり、力を加えたりしてれば、いつまで経っても炎症は治まらず、痛みも出続けていきます。
ということで、関節軟骨のすり減りは、痛みの原因とはならない、ということです。
お医者さんによっては、「関節の隙間が狭くなっていて、それが痛みの原因かもしれないから、これを治すには手術しかない」と言われることがあるかもしれませんが、以上のことから、関節軟骨がすり減ったぐらいで手術をする意味は、ほとんどないと思います。
関節軟骨すり減りですべきこと
ちなみに、関節の隙間が狭くなっていて、関節軟骨のすり減りが確認されたときに目を向けるべきは、「なぜすり減っているのか?」ということだと思います。それは、関節軟骨を維持する身体の機能が低下していたり、関節に大きな負荷がかかっているからです。
すべきことは、この身体の機能、すなわち、細胞の機能を高めることと、姿勢や歩き方など身体の使い方を健康にとって正しいものにすることだと思います。
2.神経の圧迫について
神経の片方の先端には侵害受容器がありますが、それ以外にはありません。したがって、神経の途中を圧迫されても、痛みが出ることはありません。これを裏付けるデータも存在しています。
例えば、1990年に報告された、海外での調査があります。それは、痛みのない健康な人の、腰のMRI画像検査についてのもので、以下の結果が報告されました(下グラフ参照)。
長谷川淳史:腰痛ガイドブック-根拠に基づく治療戦略,春秋社.2009.
痛みがないのに椎間板ヘルニアだった人(グラフの灰色):
- 20~50歳代では約21%
- 60歳以上では約36%
痛みがないのに脊柱管狭窄症と診断されるレベルの脊柱管の狭窄があった人(グラフの黄色):
- 60歳以上では約21%
つまり、20~50歳代では、5人に1人が、60歳以上では、3人に1人が、椎間板ヘルニアがあるにも関わらず、痛みがなかったのです!!60歳以上では、5人に1人は脊柱管の狭窄があるにも関わらず、痛みがなかったのです!!
また、現在の日本の痛み研究の第一人者である、愛知医科大学の牛田享宏教授は、アメリカ留学中に、マウスを使った実験で、神経を圧迫しても痛みが出ないことを、確認したそうです。そして、神経を圧迫すると、神経を伝わる刺激がそこで遮断されて、逆に痛みを感じなくなることを、確認したそうです。
以上のことから、神経の圧迫は、痛みの原因とはならない、ということは間違いなさそうです。
ちなみに、詳細は省きますが、痛み(侵害刺激)を伝える神経(一次侵害受容ニューロン)が、途中で切断されたり、損傷されたりすると、侵害受容器以外のところから刺激を受け取ることがあり、その場合は痛みが出ます。
ただ、椎間板ヘルニアや、脊柱管狭窄症によって、神経が切断されたり損傷されることは、まずないと思います。
なぜなら、ヘルニアで神経を圧迫する髄核はとても軟らかいものですし、脊柱管の中にある神経はまとめて膜(硬膜)で覆われているからです。
したがって、ヘルニアや脊柱管の狭窄による神経圧迫で、神経が切断されたり損傷されるとは、考えにくいです。
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症ですべきこと
ちなみに、椎間板ヘルニアや脊柱狭窄症と診断されて神経の圧迫が確認されたときに目を向けるべきは、「なぜヘルニアになったのか?なぜ脊柱管が狭窄しているのか?」ということだと思います。それは、椎間板や脊柱管を維持する身体の機能が低下していたり、椎間板や脊柱管に不必要な力が加わっているからです。
すべきことは、関節軟骨すり減りと同様、細胞の機能を高めることと、姿勢や歩き方など身体の使い方を健康にとって正しいものにすることだと思います。
3.半月板のすり減りや損傷について
半月板の内側2/3は、侵害受容器がありません。ですので、そこがすり減ったり、損傷されたりしても、痛みは出ません。
一方、半月板の外側1/3には、侵害受容器があります。ですので、そこがすり減ったり、損傷されたりすると、痛みが出る可能性があります。
しかしそこには血管があるので、すり減りや損傷後には炎症が発生し、「1.関節軟骨のすり減りについて」でお話しした滑膜の炎症と同様に、自然治癒力と患部の安静によって、痛みは治っていきます。
半月板については、理論上は以上の内容になり、実際に半月板のすり減りや損傷と痛みは関係がない可能性があるとの研究データがあります。
例えば、日本整形外科学会が刊行している雑誌である「日整会誌」に、2002年に報告されたデータがあります(日整会誌76)。それは、痛みのない健康な人の、膝のMRI画像検査についてのもので、以下の結果が報告されました(下グラフ参照)。
痛みがないのに内側半月板後節に変性があった人:
- 13~76歳では18.3%
痛みがないのに内側半月板後節に断裂があった人:
- 60歳以上では41.7%
つまり、13~76歳では、5人に1人ほどは、半月板が変性していたにも関わらず痛みがなかったのです!!60歳以上では、5人に2人は半月板が断裂していたにも関わらず痛みがなかったのです!!
この報告では、変性や断裂が、侵害受容器の存在する半月板の外側1/3にかかっていたかどうかまでは分かりませんが、MRI画像検査で半月板の変性や断裂が確認されても、それらと痛みとは関係ない可能性があるということです。つまり、半月板のすり減りや損傷は、痛みの原因とはならない、ということが示唆されているのです。
お医者さんによっては、「半月板が損傷されていて、それが痛みの原因かもしれないから、これを治すには手術しかない」と言われることがあるかもしれませんが、以上のことから、痛みを治すという目的での手術は、あまり意味がないように思います。
半月板すり減りや損傷ですべきこと
ちなみに、半月板のすり減りや損傷、変性や断裂が確認されたときに目を向けるべきは、「なぜ半月板が傷んでいるのか?」ということだと思います。それは、半月板を維持する身体の機能が低下していたり、半月板つまりは膝に大きな負荷がかかっているからです。
すべきことは、関節軟骨すり減りと同様、細胞の機能を高めることと、姿勢や歩き方など身体の使い方を健康にとって正しいものにすることだと思います。
まとめ
今回のお話しをまとめると、こんな感じです。
- 関節軟骨のすり減り、神経の圧迫、半月板のすり減りや損傷は、痛みの原因ではない可能性が高い
- 痛みを治すために、それらに対して手術をしても、あまり意味がない
- それらに付随して起こる可能性がある炎症の痛みは、自然治癒力を高めて患部を安静にしておけば、治っていく
- 目を向けるべきは、それらがなぜ起こっているかということで、いずれもすべきことは、細胞の機能を高め、姿勢や歩き方など身体の使い方を健康にとって正しいものにする
ということで、お医者さんから、関節軟骨のすり減り、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症による神経圧迫、半月板のすり減りや損傷に対して、「手術しかありません」と言われても、ちょっと考えた方が良いと思います。手術をすると少なからず元の自然な身体の機能が失われてしまいます。
また、お医者さんからは、自然治癒力を高めるとか、細胞の機能を高めるとか、姿勢や歩き方など身体の使い方を正しいものにするとか、このようなことについて詳しくは説明されないと思います。なぜなら、多くのお医者さんは、このようなことについて正確なことを知らないからです。
つまり、股関節痛などの痛み治療に対して、お医者さんの診断が全てではない、ということなのです。股関節痛を治そうとするときは、このことも是非知っておいて下さいね。
ちなみに、この記事のレントゲン写真は、私の左側の股関節です。(^^)/
解剖図:Michael Schünke 他:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系,医学書院.2007.
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