【急性痛は身体を治す味方、薬を使うと意味がない】痛みのしくみ⑮

身体が傷つけられて組織が損傷すると、ほとんどの場合、痛みが出ます。この痛みは、損傷した組織やその周囲の組織、すなわち末梢組織そのものに原因がある痛みで、急性痛と呼ばれるものです。今回の記事では、この一般的な痛みである急性痛が、実際にどのようにして引き起こされるのか、やや専門的ですが、そのメカニズムについてお話ししていきます。

今回の記事で、自分で痛みを治すために知って頂きたいことは、最後の「まとめ」に書いてあることですので、それだけでも読んでみて下さいね。(^^)/

急性痛については、記事【急性痛、慢性痛、あなたの痛みはどれ?痛みの分類と治療】痛みのしくみ⑬でもお話ししていますので、よろしければご覧下さい。

損傷直後の痛み発生メカニズム

一次痛の発生

急性痛で最初に発生する痛みは、一次痛です。皮膚、靱帯、腱、筋肉などが、刃物などで傷つけられた直後や、強く引き伸ばされて断裂した直後は、「刺すような鋭い痛み」を感じることになり、この痛みのことを一次痛と呼びます。

一次痛は、痛み刺激が、伝導速度の速い一次侵害受容ニューロンであるAδ線維によって脊髄へ伝えられ、その後、大脳体性感覚野に伝わり引き起こされるものです。

一次痛は、一過性の痛みで、痛み刺激の強さに応じた強さの痛みとなり、損傷された場所の識別に役立つ痛みです。

二次痛の発生

一次痛から少し遅れて、「鈍く疼くような痛み」が出るようになり、この痛みのことを二次痛と呼びます。

二次痛は、痛み刺激が、伝導速度の遅い一次侵害受容ニューロンであるC線維によって脊髄へ伝えられ、その後、間脳視床下部大脳島皮質大脳辺縁系前帯状回扁桃体海馬など)などに伝わり引き起こされるものです。

二次痛は、しばらく継続する痛みで、情動の発生に大きく関わっています。

ちなみに、一次痛二次痛に関する神経や脳についての詳細は記事【痛みの神経と脳、一次痛と二次痛、外側系と内側系って、何だ?】痛みのしくみ⑪で、痛み刺激については記事【痛みを自分で治すために知るべき3つの原因と根本的なメカニズム】痛みのしくみ①でお話ししています。

神経性炎症による痛み

二次痛の発生とほぼ同じタイミングで、組織損傷部位に発赤がみられるようになります。続いて、損傷部位とその周囲に腫脹がみられ、発赤の範囲も拡大します。痛みもそれに応じて、損傷部位だけでなく、その周囲に広がります。この現象は、フレア(flare)と呼ばれています。

フレアとは、神経性炎症というものによる現象です。神経性炎症は、一次侵害受容ニューロン(主にC線維)の逆行性興奮によって起こる、局所性の炎症です(図1)。そのメカニズムは次の通りです。

図1:神経性炎症

一次侵害受容ニューロンは、末梢の終末部で、何本もの神経線維に枝分かれしています。痛み刺激によって引き起こされた痛みセンサー侵害受容器)での興奮は、その分岐部に達すると、脊髄に向かって順行するだけでなく、他の分枝を伝って末梢に向かって逆行します。これは、軸索反射と呼ばれています。

また、一次侵害受容ニューロンを伝わって脊髄後根に達した興奮は、別の末梢神経を興奮させます。これは、後根反射とよばれています。

軸索反射後根反射によって、興奮が末梢の神経終末に達すると、その神経終末から、カルシトニン遺伝子関連ペプチドサブスタンスPといった化学伝達物質が放出されます。そして、これらの化学伝達物質によって痛みセンサーは刺激されるため、損傷部周囲に痛みが広がることになります。

また、カルシトニン遺伝子関連ペプチドには血管拡張作用が、サブスタンスPには血管透過性亢進作用があるため、発赤腫脹が起こります。さらに、これらの化学伝達物質によって肥満細胞が刺激されると、ヒスタミンが放出され、それにより血管拡張や血管透過性亢進が促され、発赤腫脹が著しくなります。

このような、軸索反射後根反射によって引き起こされる炎症を、神経性炎症といいます。

糖尿病の傷は治りにくい

ちなみに、カルシトニン遺伝子関連ペプチドサブスタンスPなどは、血管反応に作用するだけではなく、好中球マクロファージリンパ球などを活性化させ、線維芽細胞平滑筋の活動も調節しています。血管反応やこれらの反応は、組織損傷の治癒過程において、不可欠なものです。したがって、神経性炎症は、組織の治癒にとって重要な役割を果たしているといえます。

糖尿病患者さんは、創の治癒に時間がかかることが知られていますが、これは、糖尿病合併症の一つである末梢神経障害によって、神経性炎症が起こりにくいことが一因であります。

まとめ

以上のように、組織損傷直後の痛みは、最初に一次痛の「刺すような鋭い痛み」が出て、その次に二次痛神経性炎症による「鈍く疼くような痛み」が出ることになります。

損傷後の炎症に伴う痛み発生メカニズム

組織が損傷され、一次痛二次痛神経性炎症が起こった後、本来の炎症が起こります。炎症が起こると、ほとんどの場合、痛みが出ることになります。これは、炎症に関する様々な化学物質によるものです。なお、炎症のメカニズムの詳細については、記事【炎症による股関節、腰、膝の痛みの基本的な治し方】痛みのしくみ⑨をご覧下さい。

①損傷から数十秒後

通常、組織が損傷を受けて数十秒後には、炎症に起因した化学物質による痛みが出始め、この痛みが持続します。

まず、損傷を受けた組織(細胞)から、カリウムイオン水素イオンアデノシン三リン酸(ATP)などが漏出し、血小板からはセロトニン肥満細胞からはヒスタミンが放出されます。そして、これらの化学物質が、痛みセンサーを刺激することで痛みが出ることになります。

また、血液凝固が起こると、ブラジキニンが産生されます。これも、痛みセンサーを刺激し、痛みが出ることになります。

ブラジキニンが産出されると、いくつかの化学反応の結果、プロスタグランジンが合成されます。プロスタグランジンは、単独では発痛作用はありませんが、ブラジキニンによる発痛作用を増強させます。

このように、様々な化学物質が痛みセンサーを刺激しますが、それにより、先ほどお話しした神経性炎症も引き起こされることになります。この神経性炎症によっても痛みが出ることになります。

②損傷から30~60分後

組織が損傷を受けてから30~60分ほど経過すると、好中球マクロファージリンパ球などの、白血球に属する細胞が炎症の主役となります。

マクロファージは、ブラジキニンなどと反応し、インターロイキン腫瘍壊死因子などを放出します。これらが痛みセンサーを刺激し、痛みが出ることになります。

また、インターロイキンは、線維芽細胞ケラチノサイト(角化細胞)などを活性化させます。そして、線維芽細胞は、ブラジキニンインターロイキンの作用によって、プロスタグランジン神経成長因子を放出します。ケラチノサイトは、インターロイキンの作用によって神経成長因子を放出します。この神経成長因子痛みセンサーを刺激し、痛みが出ることになります。

神経成長因子はさらに、神経線維に取り込まれ、神経細胞体に運ばれると、痛みを引き起こすサブスタンスPカルシトニン遺伝子関連ペプチドTRPV1受容体などの、発現増加に影響を及ぼします。すると、結果的に、痛みの増強や持続を招くことになります。

TRPV1受容体は、痛みセンサーに存在する熱刺激をキャッチする受容体で、43℃以上の熱で活性化します。また、トウガラシの主成分であるカプサイシンや、酸(水素イオン)によっても活性化します。そして、ブラジキニンATPなど、他の化学物質の作用により、閾値温度が36℃程度まで低下する特徴があります。したがって、炎症が起こってブラジキニンATPなどが痛みセンサーに存在しているときは、体温によってもTRPV1受容体が活性化し、痛みの増強に影響を及ぼすことになるのです。

まとめ

以上のように、股関節、腰、膝を傷めたときなどに出る、一般的な痛みである急性痛は、次の順番で引き起こされます。

一次痛⇒二次痛と神経性炎症⇒本来の炎症

そして、これらはどれも、意味があって起こるものです。一次痛は、傷めた場所を特定するため、二次痛神経性炎症、本来の炎症は、嫌な気分にさせて行動に制限をかけたり、傷を治したりするため。

ということで、急性痛は私たちの味方なのです。薬などを使って急性痛を抑え込もうとすると、見方を叩きのめすことになって、余計の身体を治りにくくさせてしまうことになるのです。このことは是非知っておいて下さいね。(^^)/

〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.
沖田実,松原貴子:ペインリハビリテーション入門,三輪書店.2019.

 

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ふなこしのりひろ