【何でこんなに痛いの?ロキソニンが必要?痛みの感作とは】痛みのしくみ⑯

股関節、腰、膝の痛みは、様々な条件などにより、出やすくなったり強くなったりします。このようなことを専門的に、「痛みの感作」といいます。これは、同じ刺激に対する痛みの反応性が増強した状態のことです。今回の記事では、この「痛みの感作」にはどのようなものがあるか紹介していき、その対策についてお話ししていこうと思います。

ちなみに、今回の内容はやや専門的ですので、自分で痛みを治すためには、「末梢性感作」の「炎症に伴う感作」と、最後の「痛みの感作への対策」を読むだけでも良いと思います。(^^)/

さて、痛みの感作には、末梢性感作中枢性感作があります。末梢性感作とは、末梢神経に原因があるもので、中枢性感作とは、中枢神経に原因があるものです。それぞれについてお話ししていきます。

末梢性感作

末梢性感作には、炎症に伴う感作、エファプス異所性興奮などがあります。

炎症に伴う感作

①TRPV1受容体の変化

記事【治す味方の急性痛、薬を使うと意味がない】痛みのしくみ⑮でもお話ししていますが、組織が損傷し炎症が起こると、その周辺にブラジキニンアデノシン三リン酸(ATP)などの化学物質が漏出します。これらの化学物質が存在している下では、痛みセンサーに存在する熱刺激をキャッチするTRPV1受容体の閾値温度が低下します。TRPV1受容体は、通常は43℃以上で活性化しますが、このような条件下では、36℃程度の温度でも活性化するようになり痛みが出るようになります。したがって、体温によっても痛みが出るようになり、痛みが出やすくなります。

例えば、海水浴などで日焼けをしてお風呂の湯船に浸かろうとしたとき、お湯が痛くて浸かれなかった、という経験はないでしょうか?これは、日焼けという皮膚の炎症によってTRPV1受容体の閾値温度が低下し、いつもは問題なく浸かることが出来ていた40℃ぐらいのお湯の温度でも、痛みを感じるようになったため、と考えられます。

②プロスタグランジンによるポリモーダル受容器の変化

記事【治す味方の急性痛、薬を使うと意味がない】痛みのしくみ⑮でも少しお話ししましたが、炎症の過程で合成されるプロスタグランジンは、痛みセンサーであるポリモーダル受容器に結合し、ポリモーダル受容器の閾値を低下させます。その結果、ブラジキニンによる発痛作用が増強します。

※ロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬について

ちなみに、一般的な痛み止めの薬であるロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、プロスタグランジンの合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX:cyclooxygenase)を阻害することで、プロスタグランジンの合成を抑えて痛みの感作を軽減させ、痛みを和らげていると考えられています。

また、プロスタグランジンには、炎症作用だけでなく、発熱作用もあるため、ロキソニンなどのNSAIDsは、抗炎症作用や鎮痛作用だけでなく、解熱作用も持っています。

ただ、NSAIDsには、他の薬と同様に様々な副作用があり、有名なものでは「胃が荒れる」などがあります。ですので、ロキソニンなどのNSAIDsも他の薬と同様に、全身の健全性を保つために、可能な限り使わない方が良いと思います。

③非活動性侵害受容器の活性化

皮膚骨格筋関節内臓といった身体の中の多くの組織には、正常な状態では活動しない、非活動性侵害受容器(非活動性の痛みセンサー)が存在すると考えられています。関節内の痛みセンサー約1/3非活動性侵害受容器であると推定されていて、内臓一次求心性ニューロンの少なくとも50%非活動性侵害受容器であると考えられています。

非活動性侵害受容器は、組織損傷によって様々な化学物質が放出されたり、組織自体が低酸素状態になると、活性化すると考えられていて、このような状態になると、痛みが増強することになります。非活動性侵害受容器がいったん活性化すると、痛み刺激に対する閾値の低下が起こると考えられています。

ある実験では、正常時には関節運動を行っても非活動性侵害受容器は興奮しませんでしたが、関節内に炎症を引き起こす薬剤を注入して関節運動を行ったところ、炎症が引き起こされた後は非活動性侵害受容器の興奮が認められ、この興奮は時間経過とともに顕著になったという結果が出ています。

まとめ

以上のように、炎症が起こると、痛みは出やすくなって強くなりやすくなります。ただこれは、必要があってそうなっているのです。

炎症が起こっているということは、身体の組織が損傷しているということであり、それを治そうとしている、ということなのです。そして、傷んでいるところを治すためには、その傷んでいるところは出来るだけ安静にしておく必要があります。そして、半ば強制的に安静にさせるために、炎症時には痛みが出やすく強くなりやすくなっているのです。

ですので、炎症が起きているときに痛みを消そうとすることは、安静とは真逆のことをしようとすることであり、身体の損傷を治りにくくさせることでもあるのです。したがって、痛み止めの薬や湿布の使用、アイシングなどは、出来るだけ行わない方が良いのです。ちなみに、アイシングについては、記事【アイシングは股関節、腰、膝の痛みに有効か?その3つのポイント】痛みのしくみ⑩で詳しくお話ししています。

エファプス

神経線維が損傷されたりすると、神経線維の髄鞘が失われること(脱髄)があります。すると、神経線維の絶縁が不十分となります。そして、複数の神経線維において、絶縁の不十分な部分同士が接触することがあります。この接触する部分を、エファプスといいます。

髄鞘とは、シュワン細胞という細胞の細胞膜が、軸索に幾重にも巻き付いたものです。このような構造をした神経線維を、有髄線維といい、Aδ線維などがこれにあたります。髄鞘は電気的に絶縁されています。有髄線維は、1~2mmごとに髄鞘の区切りの切れ目があり、その部分は細胞膜が露出しており、電気的な絶縁はありません。一方、髄鞘が存在しない神経線維を、無髄線維といい、C線維がこれにあたります。無髄線維は、1個のシュワン細胞が、一重に複数の軸索を取り囲んでいます。

つまり、エファプスとは、正常なシナプス以外の場所で、2本以上の神経線維が電気信号を交換する場所のことです。エファプスは、ギリシャ語で“接触”という意味です。

エファプスが形成されると、刺激によって発生した興奮が、本来伝わっていく神経以外の神経にも伝わっていくことになります。このような現象は、クロストークと呼ばれています。

クロストークとは、元々は電話に関して使われている用語で、電話回線が混線して、知らない人の会話が聞こえてくるような状態のことです。

つまり、エファプスが形成されることにより、クロストークが起こります。クロストークが起こると、一つの神経を伝わってきた興奮が、複数の神経に伝わって同期的に増幅していき、感作を引き起こします。これにより、痛みが増強されることがあるのです。

クロストークは、異なった種の神経との間でも起こります。例えば、触覚を伝える神経と、痛みを伝える神経との間にクロストークが起こると、「触っただけでも痛い」というアロディニアが起こることになります。アロディニアについては、記事【急性痛、慢性痛、あなたの痛みはどれ?痛みの分類と治療】痛みのしくみ⑬でお話ししています。

異所性興奮

神経を伝わる痛み刺激の興奮は、通常、痛みセンサー(侵害受容器)で発生しますが、痛みセンサー以外のところから発生する興奮を、異所性興奮といいます。異所性興奮は、末梢神経で起こり、切断後再生中の神経線維の先端神経腫脱髄部損傷された神経の細胞体で起こります。

末梢神経が切断や損傷されると、その断端から新たな神経線維が伸びていき、神経線維の再生が行われますが、軸索の再生が髄鞘の再生に先行するため、新たな神経線維の先端は、軸索髄鞘に覆われておらず、むき出しの状態となっています。このため、新たな神経線維の先端は、機械的刺激に対して興奮しやすくなっており、異所性興奮が発生するところとなります。

ちなみに、神経線維が再生しているときに、神経線維に沿って中枢から末梢に向かってハンマーなどで軽く叩いていくと、神経線維の先端にさしかかったときに「ジンジン、ビリビリ」する感覚が起こります。これをティネル徴候といいますが、この現象を調べることで、神経線維がどの辺りまで再生されているかが分かります。

神経腫とは、切断された神経線維の再生過程が障害されて、シュワン細胞結合組織軸索が一緒になって、玉のようになったものです。神経腫は、機械的刺激に対して興奮しやすくなっており、異所性興奮が発生するところとなります。

再生神経線維の先端、神経腫脱髄部、損傷された神経の細胞体は、イオンチャネル受容体が発現することがあります。そのイオンチャネルが自発的に興奮したり、その受容体に機械的刺激が加わったりすると、異所性興奮が発生することになります。

イオンチャネルは、細胞の膜に存在する、イオンを透過させるタンパク質です。イオンチャネルで、細胞内へのイオンの流出入が行われると、活動電位(興奮)が発生することになります。

中枢性感作

炎症が持続したり、神経が損傷を受けたりした場合、中枢神経系の様々なところで侵害受容ニューロンの機能が変化して、痛みが増強しやすくなります。これを中枢性感作といいます。この中枢性感作は、特に脊髄で解明されています。ここでは、脊髄での中枢性感作の代表的なものを紹介します。

ワインドアップ

ワインドアップとは、一次侵害受容ニューロンのうち、C線維の興奮が繰り返し起こると、脊髄後角に存在する二次侵害受容ニューロンである広作動域ニューロンの興奮数が、しだいに増加する現象です。この現象により、痛みはしだいに増強してしまいます。

長期増強

長期増強とは、シナプスでの刺激伝達が高頻度で行われると、シナプス伝達効率が上昇し、その状態が維持される現象です。この現象は、痛みの持続、慢性化に関与すると考えられています。ちなみに、私たちがものを覚えるときの「記憶」も、この長期増強が関係していると考えられています。

シナプス再構築

通常、痛みを伝える一次侵害受容ニューロンや、触覚情報を伝えるAβ線維は、それぞれ脊髄後角の所定のエリアへ進入し、所定の神経とシナプスを形成しています。しかし、末梢神経が損傷すると、次の現象が生じます。

まず、C線維が変性して脱落します。すると、Aβ線維から、新たな軸索が枝分かれし、脊髄後角C線維シナプスしていた神経と、シナプスを形成します。この新たなシナプス形成によって、「触ると痛みが出る」というアロディニアが引き起こされることになります。

しかし、最近の研究で、Aβ線維から枝分かれする軸索は、C線維が進入している脊髄後角のエリアまで達しないことが明らかとなり、このシナプス再構築の機序は、疑問視されています。

脱抑制

通常、脊髄後角シナプスの前後では、抑制性介在ニューロンによって、興奮の伝達が弱まるよう調整されています。しかし、末梢神経が損傷すると、抑制性介在ニューロンが変性したり、抑制性伝達物質の含有量が減ったりするという報告があります。また、組織損傷による痛みが慢性的に起こっていると、下行性疼痛抑制系が作用しないという報告もあります。

これらのように、シナプス前後の抑制が減弱すると、シナプス伝達が通常より亢進し、痛みが出やすくなります。下行性疼痛抑制系については、記事【さする、つねる、で痛み和らぐ?モルヒネや脳内麻薬、体内の鎮痛システム大公開】痛みのしくみ⑫でお話ししています。

グリア細胞の活性化

末梢神経が損傷すると、脊髄後角グリア細胞、特にミクログリアが活性化します。また、炎症が起こっていると、炎症により産生されるサイトカインが血流にのって脊髄に入り、ミクログリアを活性化させます。

活性化したグリア細胞、特にミクログリアは、サイトカインを放出します。そのサイトカインは、一次侵害受容ニューロン脊髄内終末からの神経伝達物質の放出を促進し、二次侵害受容ニューロンの興奮性を増大させます。その結果、シナプス伝達が亢進し、痛みが出やすくなります。

グリア細胞とは、神経膠細胞とも呼ばれ、神経細胞を支えている支持細胞です。グリア細胞の数は、ヒトの脳では、神経細胞の50倍ほどあります。中枢神経末梢神経では、グリア細胞の種類が異なっています。中枢神経では、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)アストロサイト(星状膠細胞)ミクログリア(小膠細胞)上衣細胞などがあり、末梢神経では、外套細胞(衛星細胞)シュワン細胞などがあります。

痛みの感作への対策

以上のように、様々な条件によって痛みの感作が起こり、痛みが出やすくなったり強くなったりします。そして、その条件が発生する要因は主に、炎症神経損傷痛み刺激伝達増強の3つです。では、自分で長引く痛みを根本的に治すために、痛みの感作が発生する要因に対して出来ることは、どのようなことがあるでしょうか??簡単にまとめると、次のようになります。

炎症⇒しっかり炎症させて、速やかに炎症を完了させる

神経損傷⇒自然治癒力を上げて、神経を正しく修復させる

痛み刺激伝達増強⇒自然治癒力を上げて、速やかに炎症や組織修復を完了させ、体内での発痛物質の産生を終了させる

そして、炎症を完了させるのも、神経や組織を修復するのも、全て私たちの細胞が行うことです。したがって、細胞の機能を健全にして最大限に高めれば、痛みの感作を最小限にでき、痛みを軽くすることが出来るのです。

脳での感作

また、先ほど長期増強についてお話ししましたが、この長期増強脊髄だけでなく、でも起こります。ですので、分かりやすく言うと、痛みを感じ続けていればいるほど、脳でも痛みの感作が起こり、痛みが出やすく強くなりやすくなるのです。したがって、痛みを長引かせないようにするために、できるだけ痛みを感じないようにすることも大切なことになります。

ロキソニンなどの鎮痛薬や湿布、アイシングなど、強制的に痛みを感じさせなくすることは、この点については有効な手段であり、唯一のメリットだと思います。ちなみに、アイシングについては、記事【アイシングは股関節、腰、膝の痛みに有効か?その3つのポイント】痛みのしくみ⑩で詳しくお話ししています。

脳での感作が発生する要因である「痛みを感じ続ける」ということに対して、自分で出来ることを簡単にまとめると、次のようになります。

痛みを感じ続ける⇒好きなこと、楽しいこと、没頭できることなどをして、痛みから気をそらす

まとめ

以上のように、痛みの感作への対策として、自分で出来ることは次の2つです。

・細胞の機能を高める

・好きなことや楽しいことをする

これを行っていれば、痛みの感作は起りにくくなり、無駄に痛みに苦しまなくて済みます。もっと言えば、この2つの対策は、痛みの感作が起こりにくくなるどころか、股関節、腰、膝の長引く痛みそのものを根本的に治すことにもなるのです。(^^)/

そして、細胞の機能は、食事、運動、睡眠、ストレスなど、生活習慣によって決まっていきます。つまり、細胞の機能を高めるとは、生活習慣を細胞にとって良いものにしていく、ということなのです。生活習慣を良くしていけば、長引く痛みが治るだけではなく、様々な病気も治っていきますよ。(^^)/

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〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.
沖田実,松原貴子:ペインリハビリテーション入門,三輪書店.2019.

 

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