【股関節痛で安静にしない方が良い理由と理想的な治し方】痛みのしくみ⑯

股関節痛に悩まされているとき、その痛みが出ないようにするため、ずっと安静にしている方が良いのでしょうか?それとも・・

骨折したり靱帯やアキレス腱を切ったりして病院に行くと、患部にギプスを巻かれたり、装具を着けられたりします。これは、損傷した組織の治癒を促進させるために行われるものです。しかし、このような処置は、二次的に、拘縮筋委縮といった障害を引き起こすことも知られています。

拘縮とは、関節周囲の軟部組織(筋肉、腱、関節包、靱帯など)の柔軟性が低下して、関節の動く範囲が狭くなる状態のことです。筋委縮とは、筋肉の大きさや重さが減少して、やせ細ることです。

また、このような処置の副作用として、患部の炎症が治まっていき組織の治癒が進んでいるにもかかわらず、痛みだけが残ってしまうこともあります。このような痛みは、「骨折や靱帯損傷といった、組織損傷があったから痛みが出る」、「拘縮が発生して筋肉や関節が硬くなっているから痛みが出る」などと、漠然と捉えられていました。

しかし最近の研究で、このような痛みのメカニズムについて、少しずつ解明され始めています。そして、ギプス固定、非荷重(体重をかけないなど)、安静臥床などによって引き起こされる「不活動状態」は、それ自体が痛みを生み出し、しかも慢性痛の発生要因になる、と言われるようになっています。

今回の記事では、安静や不活動状態によって痛みがどのように変化していくのか、その変化の要因となる身体の変化にはどのようなものがあるかを、様々な研究報告を紹介しながらお話ししていきます。

なお、今回のお話しはかなり専門的ですので、股関節痛を治すためだけであれば、最後の「理想的な股関節痛の治し方」だけ読んで頂いても良いと思います。ここに今回の記事で私がお伝えしたいことが書いてあります。(^^)/

安静による痛みの変化

まずは、不活動によって痛覚閾値が低下したという研究報告をいくつか紹介します。「痛覚閾値が低下する」とは、痛みを感じる刺激の強度が下がった、つまり「痛みを感じやすくなった」ということです。

ヒトを対象とした実験

ヒトを対象とした実験として、Butlerは、23名の健康なボランティアの前腕(肘~手首の部分)を4週間ギプス固定したところ、52.2%に冷痛覚閾値の低下が、36.1%に熱痛覚閾値の低下が認められたことを報告しています。

また、Terkelsenらは、30名の健康なボランティアの前腕から手関節(手首)を4週間ギプス固定し、親指と人差し指の間の皮膚をつまむ際の圧力値によって痛覚閾値を評価したところ、ギプス固定を解除した直後だけでなく、解除後3日目28日目においても、痛覚閾値の低下が認められたことを報告しています。

ちなみに、Verbuntらは、腰痛発症後の安静といった全身の不活動の影響について調査したところ、腰痛発症から4日以上安静にしてしまうと、その後1年以上も痛みをはじめとした機能障害が残存するということを報告しています。

動物を用いた実験

動物実験として、Guoらは、ラットの足関節(足首)を中間位(脛と足の裏が直角の状態)で4週間ギプス固定し、足底部の機械的刺激に対する痛覚閾値を評価したところ、ギプス固定解除直後から2週間後まで痛覚閾値の低下が認められたことを報告しています。

また、山本らは、ラットの足関節を最大底屈位(足首を倒した状態)で4週間ギプス固定し、足底部の機械的刺激に対する痛覚閾値を評価しました。この実験では、左右とも足関節を固定した両肢固定群と、片方の足関節だけを固定した片肢固定群を設け、その比較も行われました。

その結果、両肢固定群はギプス固定2週間後から、片肢固定群はギプス固定3週間後から痛覚閾値の低下が認められたと報告しています。また、両肢固定群は、片肢固定群よりも全身の活動量が少なかったことから、山本らは、この2群間での痛覚閾値低下が発生し始める時期が異なるのは、このことが影響しているのではないかと論じています。

また、沖田らは、ラットの右足関節を最大底屈位で、膝関節上部から前足部(足の先の方)までギプス固定し、足底部の機械的刺激に対する痛覚閾値を評価しました。この実験では、4週間固定した群、8週間固定した群を設け、それぞれギプス固定を解除してから4週間後の痛覚閾値も評価されました。

その結果、ギプス固定2週間後から痛覚閾値の低下が認められ、その後はギプス固定の期間に応じて痛覚閾値の低下が著しくなっていきました。また、ギプス固定を解除した後の4週間では、4週間固定群では痛覚閾値の回復が認められたが、8週間固定群では回復が認められなかったと報告しています。

まとめ

以上のように、ヒトでも動物でも、ギプス固定などによる安静や不活動状態は痛みを発生させやすくし、その期間が長期化すると、その痛みは慢性痛へと発展する可能性が高いということが示唆されています。ちなみに慢性痛については、記事【あなたの股関節痛は急性痛?慢性痛?痛みの分類と治療】痛みのしくみ⑫でお話ししています。

安静による神経系の変化

先ほどお話ししたように、安静や不活動状態は痛みを発生させやすくしますが、それはなぜでしょうか??

骨、関節、筋肉などの末梢組織は、身体を動かす実行器官です。一方、皮膚と同じように、これらの組織にも様々な刺激を感じ取る「感覚器」としての役割もあります。

そのため、末梢組織を不活動状態にするということは、骨、関節、筋肉などの末梢組織が受ける刺激の量が、少なくなったり全くなくなったりすることになります。

生体は、環境に適応していこうとするので、刺激の量が減少するということは、刺激に対する生体の反応をコントロールしている神経系などに、変化が起こることが考えられます。

一次求心性ニューロンの感作

Okamotoらは、ラットを用いて、膝関節内に起炎剤を投与し関節炎を発生させた関節炎モデルと、膝関節を6週間ギプス固定をした不活動モデルを用いて、安静時と関節運動時の膝関節からの一次求心性ニューロン(末梢組織の感覚情報を脊髄に伝える神経)の活動を調査しました。ニューロンとは、神経細胞のことです。

その結果、安静時、関節運動時とも、関節炎モデルと同様に、不活動モデルでも一次求心性ニューロンの活動の高まりが認められたことを報告しています。これは、末梢組織を不活動状態にするだけでも、炎症が起こっている場合と同様に、一次求心性ニューロン感作が起こる、ということが示唆されます。

感作とは、刺激に対して過敏に反応することです。痛みの感作については、記事【感作で股関節痛が痛すぎるときはロキソニンを使う?】痛みのしくみ⑮で詳しくお話ししています。

また、ネコを用いた調査ですが、膝関節を支配する一次求心性ニューロンの75~90%はAδ線維C線維(どちらも一次侵害受容ニューロン)であると報告されており、このことを考慮してOkamotoらの調査結果を考えると、不活動による求心性ニューロン感作は、痛みの発生に関与していると予想できます。

二次侵害受容ニューロンの感作

Ushidaらは、ラットの手関節を90°掌屈位(手首を90°曲げた状態)で、前腕から手掌まで3~4週間ギプス固定した後、前腕から手掌の機能に関わる脊髄後角細胞(ニューロン)の、機能面での分布状況を調査したところ、広作動域ニューロン(侵害性、非侵害性の幅広い刺激に興奮する二次侵害受容ニューロン:記事【痛みの伝導路、一次痛と二次痛、外側系と内側系って、何だ?】痛みのしくみ⑩参照)と、関節運動のみに反応するニューロンの割合が、増加したことを報告しています。

これは、不活動状態が、脊髄後角細胞の可塑的変化を引き起こす可能性を示唆しています。また、広作動域ニューロンの割合が増加するということは、末梢から非侵害的な刺激が加えられただけでも痛みとして知覚される可能性がある、ということです。

さらに、不活動状態の後に関節運動を行うとき、ときどき痛みが出ることがありますが、これは単に拘縮が発生しているからだけではなく、脊髄後角での関節運動に反応するニューロンが増加していることも、その一因だと考えることができます。

先ほど「安静や不活動による痛みの変化」で紹介した沖田らの実験では、ギプス固定解除後に、ホルマリンテストというものも実施されています。これは、ラットの足底にホルマリンを投与し、その化学刺激に対してラットが行う、舐める、噛むといった、痛み関連行動の実施時間を5分ごとに計測するものです。

ホルマリン投与後5分までを第1相と呼び、このときの行動は、化学的な侵害刺激に対する「末梢の痛み」を意味しているといわれています。ホルマリン投与後10分以降は第2相といい、このときの行動は、局所の炎症とそれに引き続いて起こる脊髄後角細胞の感作に依存した「中枢の痛み」を意味するといわれています。

この実験の結果、4週間固定群では第1相のみ高い値(痛み関連行動の実施時間が長いということ)を示し、8週間固定群では第1相だけでなく第2相の35分後まで高い値を示しました。

この結果から、4週間ギプス固定を行って発生した痛みは、神経系の影響というより、末梢組織そのものの変化によるものと推察できます。一方、8週間ギプス固定を行うと神経系にも変化が起こり、この影響によって慢性痛が発生する可能性があることが分かります。

まとめ

以上のように、安静や不活動状態により発生する痛みは、神経系の変化によって引き起こされている可能性があることが示唆されています。また、不活動によりに変化が起こったという研究報告もあり、安静や不活動状態は、それ自体が痛みを発生させ、慢性痛を生み出してしまう可能性があります。

安静による末梢組織の変化

不活動状態による痛み発生の要因として、神経系の変化以外に、末梢組織の変化も考えられます。沖田らは、先ほどお話しした実験で用いたラットの、足底部の皮膚の肉眼的、組織学的変化を調査しました。

表皮の菲薄化

ギプス固定後の肉眼的変化としては、皮膚の荒れが特徴的でした。これは実際の患者さんにも、しばしば見られる現象です。ギプス固定後の組織学的変化としては、角質層(皮膚の構造は記事【股関節痛の始まりはどこ?筋肉?関節?股関節唇?】痛みのしくみ④「皮膚の痛み」参照)の乱れが認められ、肉眼的変化として観察された皮膚の荒れを裏づける結果となりました。

また、ギプス固定後は表皮の菲薄化も認められました。実際に表皮の厚さを計測したところ、ギプス固定期間に応じて表皮の厚さは減少していき、ギプス固定2週間後、4週間後は、有意に表皮の厚さが減少していました。

表皮の菲薄化は、自由神経終末が分布する表皮の基底層と外界との距離が短くなることを意味し、このような状態になると、正常な状態と比べて、外界の刺激を鋭敏に感じやすくなるのではないかと推測できます。

実際、先ほど紹介した沖田らの実験結果では、ギプス固定2週間後から機械的刺激に対する痛覚閾値の低下が認められており、表皮の厚さが有意に減少する時期と一致しています。したがって、不活動状態による痛みの発生には、表皮の菲薄化が関与している可能性が考えられます。

痛みセンサーの増加

さらに、ギプス固定後、真皮上層に分布する一次求心性ニューロンA線維C線維)に側枝が発芽し、それによる一次求心性ニューロンの分布密度の増加が認められました。

また、足底部だけではなく、腓腹筋でもギプス固定2週間後から筋痛が発生し、その発生時期と一致して一次求心性ニューロンC線維の分布密度の増加が認められました。

この一次求心性ニューロンの分布密度の増加は、痛みセンサー侵害受容器)の数が増加したことを意味し、これによっても外界の刺激を鋭敏に感じ取るようになると推測できます。不活動による痛みの発生は、このことも関与している可能性があると考えられます。

まとめ

以上のように、不活動状態にしていると、表皮が菲薄化したり、痛みセンサーが増加するといった、末梢組織の変化が現れるようになり、この変化によって痛みが発生しやすくなることが考えられます。

理想的な股関節痛の治し方

お話ししてきたように、安静や不活動にしていると、それだけで身体に様々な変化が起こり、股関節痛が発生しやすくなり、治りにくくなる、ということが分かります。したがって、それらを防ぐためには、安静にせず、身体を動かす必要があるのです。

昔の病院では、「痛みがあったり病気のときは、できるだけ安静にしておく」、という方針で治療が行われていました。しかし今は違います。「できるだけベッドで寝たままにしていないで、活動させる」、という方針で治療やリハビリが行われています。なぜなら、その方が治りが早いことが明らかになっているからです。

しかし、だからと言って、何でもかんでも動いて活動的にしておけば良いということではありません。「痛みの出ない範囲で、無理のない範囲で」、ということなのです。

痛みは身体にとっての警告信号ですので、痛みが出るようなことは、基本的には行ってはいけません。ちなみに、痛みが警告信号ということについては、記事【股関節痛には身体と人生を守る警告信号という2つの側面の意味がある】痛みのしくみ③でお話ししています。

例えば、「股関節痛があるとき、安静や不活動による痛みの悪化を防ごうと、痛みを我慢しながら股関節を一生懸命動かす」、ということはしない方が良いです。この場合の、身体を動かすということについての理想的な痛みの治し方は、次の通りです。

  1. 痛みのない範囲で股関節を動かす(または動かしてもらう)
  2. 股関節以外の部分を良く動かす
  3. 無理のない範囲で活動的に過ごす

「1」は患部の安静や不活動を防ぐ目的、「2」と「3」は全身の血流を良くしたり気分をスッキリさせたりする目的で行います。

ということで、痛みがあるときは、この3つを実践して、不必要な安静や不活動を避け、効果的に股関節痛を治していきましょう~(^^)/

〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
沖田実,松原貴子:ペインリハビリテーション入門,三輪書店.2019.

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