【股関節痛はいつ治る?治り方のメカニズム】痛みのしくみ⑬
股関節痛があると、自分の行動を抑えたり、安静にしたりしますよね。股関節痛もそうですが、全ての痛みは、自分の身体を害から守り、傷んだところを治りやすくさせるために出るものです。
つまり、痛みの大きな目的の一つは、傷んだ身体を治す、ということなのです。身体が治ることで痛みはその役割を終え、消えていくのです。
今回の記事では、身体が治るメカニズム、損傷した身体の組織の修復のしくみついて、お話ししていこうと思います。これを読めば、股関節痛がいつごろ治るのか、見えてきます。
この記事は専門的な内容も多いため、結論だけ知りたい方は、「まとめ」だけ読んで頂けると良いと思います。またこの記事では、筋肉痛や肉離れについてもお話しします。(^^)/
まず、皮膚や靱帯、腱や筋膜など、主に結合組織で構成された組織と、筋肉とでは、治癒のメカニズムがやや異なります。それぞれどのように治っていくのか、お話ししていきます。
ちなみに、この記事のイラストは全て私が描いたものです。(^^;)
目次
結合組織の治り方
まずは結合組織についてお話ししていきます。結合組織とは、身体の組織を互いに結び付けて支えたり、一定の形や位置を保つ役割を果たす組織のことです。
皮膚、靱帯、腱、筋膜など、主に結合組織で構成された組織が損傷すると、残存する細胞が増殖し、損傷された組織を元通りに修復するメカニズムが作動し、治癒へと向かいます。
この治癒過程は、①炎症期、②増殖期、③成熟期の3つに分けることができ、それぞれが独立することなく、オーバーラップしながら進んでいきます。
ここでは、創傷(皮膚などの体表組織の損傷)の治癒過程をみていきますが、その内容は、靱帯、腱、筋膜といった、結合組織で構成された組織の損傷にも、おおむね当てはめることが(普遍化できる)とされています。
①炎症期
炎症期は、記事【炎症による股関節痛のメカニズムと治し方】痛みのしくみ⑨でお話しした、組織学的変化がみられます。
この炎症期が完全に終了する前に、次の増殖期の組織学的変化が始まります。つまり、炎症期で生じた組織学的変化が、増殖期の組織学的変化を促す、橋渡しの役割があります。なかでも、血小板やマクロファージから分泌される様々なサイトカイン(PDGF、TGF-β、VEGFなど)は、増殖期の主要な組織学的変化である、肉芽組織形成と血管新生に、不可欠なものです。
ちなみに、サイトカインとは、細胞から分泌される低分子のタンパク質で、他の細胞の活動に影響を与えるものです。
炎症期は、受傷直後~7日ほどの時期にみられます。
②増殖期
増殖期は、受傷後3日~2週間ほどの時期で、未熟ながらも組織の連続性が修復されます。
この時期の主な組織学的変化には、表皮における上皮化、真皮(創傷が深い場合は皮下組織や筋膜も含む)における肉芽組織形成と血管新生があります。
1.上皮化
創傷によって欠損した表皮は、上皮化とよばれる反応によって治癒していきます。この反応は、受傷後数分以内に始まります。
図:皮膚の構造
まず、創部周辺の表皮の基底層から新たなケラチノサイト(角化細胞)が次々に供給され、表皮を埋め尽くし、創表面が閉鎖します。そして、基底層の細胞の働きにより、基底膜(基底層と真皮の間の膜)が形成されると、上皮化が完了し、表皮の再生が完了します。
この上皮化は、その範囲が限られており、創部周辺から2~3cmの範囲しか覆うことができないと言われています。
ケラチノサイトとは、角化細胞のことで、表皮の大部分を構成するものです。成熟するに伴い、上方の層へ移行し、表皮の各層を構成します。約2週間で角質層へ移行し、さらに2週間かけて、垢となって剥がれ落ちます。
ちなみに、皮膚の構造については、記事【股関節痛の始まりはどこ?筋肉?関節?股関節唇?】痛みのしくみ④をご覧下さい。
2.肉芽組織形成
肉芽組織とは、主に結合組織で構成された組織の損傷後に起こる修復反応として作られる新生組織のことです。これは、新生血管、結合組織、線維芽細胞などで構成されます。線維芽細胞とは、結合組織を構成する細胞の一つで、細胞外基質(細胞の周りを構成する骨格のようなもの:コラーゲンなど)を合成します。
炎症期に損傷部へ集まった血小板やマクロファージなどから分泌されるサイトカイン(PDGF)は、線維芽細胞を刺激します。その結果、受傷後3~5日までに、活性化した線維芽細胞が、創部に集積、侵入し、創部において最も有意な細胞となります。
そして、血小板、活性化したマクロファージや線維芽細胞からは、別のサイトカイン(TGF-β)が分泌されます。そのサイトカイン(TGF-β)は、線維芽細胞を増殖させ、線維芽細胞による細胞外基質の合成を促します。すると、創部は、細胞外基質で埋め尽くされるようになります。これが、肉芽組織形成といわれる反応です。
この肉芽組織は、徐々にコラーゲンに置き換わっていきます。ただ、この時期のコラーゲンは、主にタイプⅢコラーゲンで構成されており、線維自体も細く、線維束も形成していないことから、抗張力に乏しいものとなっています。
コラーゲンとは、真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質の一つで、細胞外基質の主成分です。コラーゲン線維は、太い方から順に、Ⅰ~Ⅴに分類されます。
3.血管新生
増殖期では、新たに形成された肉芽組織の構成成分に、酸素と栄養素を供給するため、血管新生と呼ばれる反応が起こります。この反応の中心的役割をなすのが、血管内皮細胞です。
この血管内皮細胞は、マクロファージや線維芽細胞から分泌されるサイトカイン(FGF、VEGFなど)によって刺激を受けると、分裂、増殖し、創部に集積してきます。その結果、創部には毛細血管が新生し、毛細血管ネットワークが作られていきます。
なお、血管新生の乏しい肉芽組織は、創傷治癒が遅延、障害され、難治性になるとされています。
③成熟期
受傷して約5日以降は、成熟期とよばれる時期に入ります。創傷が重症な場合は、この時期が、年単位に及ぶこともあります。
成熟期の主な組織学的変化は、創全体を閉鎖するための創収縮と、肉芽組織から瘢痕組織へ変化する過程におけるコラーゲンのリモデリングが挙げられます。瘢痕組織とは、欠損した組織が、本来の細胞や組織によって補充されず、その代わりに置き換わった結合組織のことです。
1.創収縮
肉芽組織が形成されると、創の収縮が生じます。この反応は、早い場合では受傷後3~4日後には始まります。これによって、創全体が閉鎖し、傷口も小さくなります。
創収縮のメカニズムは、まだ完全には明らかにされていませんが、それを制御しているのは、線維芽細胞から分化した筋線維芽細胞と考えられています。筋線維芽細胞とは、収縮する能力を持った線維芽細胞のことです。
2.コラーゲンのリモデリング
受傷後3~5日の増殖期から始まった、サイトカイン(TGF-β)による線維芽細胞におけるコラーゲン合成は、数週間持続します。これにより、創部にはコラーゲンが凝集します。
ちなみに、切開創の場合、サイトカイン(TGF-β)の量は、受傷後7~14日がピークとされおり、これが抜糸の時期の根拠となっています。
コラーゲンは合成される一方で分解も受けています。この分解を制御しているのは、マクロファージや線維芽細胞などから分泌される、タンパク質分解酵素です。
このように、コラーゲンのリモデリングは、線維芽細胞による合成と、タンパク質分解酵素による分解の、バランスによって成り立っています。そして、最終的に肉芽組織は、コラーゲン線維などの細胞外基質の中に、少数の線維芽細胞が存在する、瘢痕組織になります。
その後、創部は数ヶ月をかけて、コラーゲンの合成と分解(リモデリング)を起こし、成熟した瘢痕組織になっていきます。
この過程で、初期に合成されたタイプⅢコラーゲンは、タイプⅠコラーゲンに置き換わり、コラーゲン線維自体も太くなります。また、コラーゲン線維束も形成され、その配列も網目状の形態をとるようになるため、抗張力も増加します。加えて、新生血管は消退し、線維芽細胞の数も減少します。
このようにして創傷の治癒は完了していきますが、皮膚の傷としては完全に治癒していても、その強さは正常の80%程度であり、弾力性も少なく、皮膚付属器官(毛、汗腺など)も欠いていることから、機能的には不十分なものとなっています。
筋肉の治り方
ここからは、筋肉の治癒についてお話ししていきます。(^^)/
慣れない運動をした後に起こるような「筋肉痛(遅発性筋肉痛)」や、スポーツをしているときに起こったりする「肉離れ」は、筋肉が損傷した具体的な例です。これらの損傷した筋肉は、どのように治っていくのでしょうか??
図:筋肉の構造
なお、ここでお話しする筋肉の損傷(筋損傷)とは、筋線維の損傷のことです。ここでは、筋肉の治癒について、①筋線維の壊死と②筋線維の再生に大きく分けてみていきます。
ちなみに、筋肉の構造については、記事【股関節痛の始まりはどこ?筋肉?関節?股関節唇?】痛みのしくみ④をご覧下さい。
①筋線維の壊死
筋損傷では、筋線維(筋細胞)の細胞膜が破損します。すると、その細胞膜の透過性に異常が生じ、Ca2+(カルシウムイオン)が筋線維内に流入し、その濃度が上昇します。
Ca2+は、筋肉が収縮するスイッチとなっています。したがって、Ca2+濃度が上昇した筋線維は、過収縮状態となります。そして、Ca2+依存性のタンパク質分解酵素が活性化し、筋線維のタンパク質の融解、断片化が始まり、筋線維は壊死を起こします。ちなみに、筋肉が収縮するスイッチをオフにする役割を担っているのは、マグネシウムです。
ただ、筋線維は多核細胞であるため生存力が強く、壊死を起こした部位も一部にとどまり、筋線維全体の壊死には至りません。その後、筋線維は、再生、回復していきます。
筋肉痛について
筋損傷が、単一の筋線維の部分的な壊死である場合は、大きな出血もなく、損傷直後に痛みが出ることはありません。しかし、筋線維の壊死が発生した1~2日後には、好中球やマクロファージが損傷した部分に浸潤し、炎症反応がピークを迎えると、痛みが出るようになります。このメカニズムは、いわゆる「筋肉痛(遅発性筋肉痛)」の一因として有力視されています。
肉離れについて
一方、筋損傷の程度が大きいと、筋線維の壊死にとどまらず、筋膜を含んだ筋組織の断裂に及び、出血も顕著にみられます。出血部位やその周辺では、炎症による血管反応が起こり、炎症の徴候である、発赤、熱感、腫脹、疼痛が引き起こされることになります。これが、「肉離れ」とよばれる筋損傷です。
この「肉離れ」の治癒過程では、筋線維の壊死、再生に加え、結合組織で構成される筋膜の修復過程を伴いますので、治癒するまでには時間がかかります。
②筋線維の再生
筋内膜の中には、筋衛星細胞という、通常は活動を休止している細胞が存在します。筋線維に壊死が起こると、この筋衛星細胞が活性化し、筋線維の再生が始まります。
筋衛星細胞は、マクロファージの活動の終了を待たずに、筋線維の壊死が発生した約1日後から活性化し、筋芽細胞に分化して、増殖を繰り返します。筋芽細胞の増殖がある程度進行すると、次に筋芽細胞どうしの融合が始まり、筋管細胞へと分化します。これは壊死から約3日後によくみられます。
壊死から約7日後、筋管細胞は、壊死した筋線維の両端をつなぎ合せるように融合し、筋線維を再生します。
壊死から約1ヶ月後には、筋線維の回復はほぼ終了し、筋線維は元通りになります。また、筋管細胞がそのまま成長して新たな筋線維となり、筋線維の数が増加することもあります。
まとめ
以上のようにして、皮膚や靱帯、腱や筋膜など、主に結合組織で構成された組織も、筋肉も、治るまでには1~2週間ぐらいはかかるようですね。
ということは、それに伴う痛みが1~2週間続いても、全く不思議なことでもなく、異常なことでもないのです。つまり、股関節痛が1~2週間続くのは普通のことなのです。
ですので、股関節痛が数日続いているからといって、不安になる必要はないのです。むしろその不安が、股関節痛をどんどん長引かせていくことになってしまいます。
股関節痛は損傷が治れば消えていきます。つまり、早く損傷が治れば、早く痛みは消えていく、ということになります。
股関節痛を治しているのは細胞
この損傷を治しているのは、私たちの身体を作っている細胞です。なので、損傷を早く治して早く股関節痛を消したければ、細胞の機能を高めてあげれば良いのです。
細胞の機能は、食事、運動、睡眠、ストレスなど、生活習慣の全てが関わっています。これらを健康にとって良い状態にしておくと、損傷は早く治り、股関節痛も早くに消えていくことになります。
股関節痛が2週間以上経っても治らないとき
で、股関節痛が2週間以上経っても治らない場合は、股関節が損傷され続けていたり、細胞の機能が低下していたりすると思われるので、何かしらの取り組みを行っていった方が良いと思います。
この場合、基本的にすべきことは、股関節への負荷を減らすために姿勢や歩き方を良くすること、細胞の機能を高めること、などです。
いずれにしても、適切な対応をしていれば、通常の股関節痛でも、長引く股関節痛でも、間違いなく治っていくので、安心して治すことに取り組んでいきましょう。(^^)/
〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
奈良勲 監,内山靖 編:理学療法学事典,医学書院.2006.
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