股関節、腰、膝の痛みの原因が炎症の場合は、どのように治せば良いでしょうか??
記事「股関節、腰、膝の痛み、たった3つの基本的な原因と根本的なメカニズム」でお話ししているように、股関節、腰、膝の痛みは、基本的には、侵害受容器が侵害刺激をキャッチすることで生じます。
その侵害刺激は、機械的刺激、熱刺激、化学的刺激の3種類がありますが、長引く痛みに関係するのは主に化学的刺激です。
化学的刺激とは、発痛物質による刺激です。
発痛物質は、体が損傷して炎症が生じているときや、細胞が酸素不足や栄養障害に陥っているときに、産生されます。
今回の記事では、炎症とはどのようなものなのか、炎症の特徴、炎症と痛みの関係、炎症に伴う痛みの治し方などについて、お話ししていきます。
途中に炎症の機序のフローチャートも掲載しておきますので、そちらも参考にして下さい。
1.炎症の概要
私たちの体は、損傷すると、損傷したところを、自ら修復させようとします。
いわゆる、自己治癒、自然治癒と言われるものです。
この損傷した体の組織の修復は、どのようにして行われるのでしょうか?
大雑把にいうと、損傷したところに炎症が生じ、損傷を受けた組織が取り除かれ、そこが新たな組織に置き換わることで、修復されていきます。
言い方を変えると、損傷した体を修復するために、炎症が生じます。
炎症が生じると、損傷が生じたところやその周囲には、次の症状が現れます。
1.発赤(赤みを帯びる)
2.腫脹(腫れあがる)
3.熱感(熱を持つ)
4.疼痛(痛みが出る)
これらの症状は、「炎症の4徴候」として、経験的に古くから知られています。
現代においては、これらの原因は、血管拡張、血流増加、血管透過性亢進などの、血管反応による変化であることが明らかになっています。
また、炎症が生じると、反射的、意識的に運動が抑制され、正常な運動ができなくなってしまいます。
この状態を機能障害と言いますが、これを加えて、「炎症の5徴候」と呼ぶこともあります。
炎症は、損傷した組織を修復するためには必要不可欠なもので、この生理反応が正常に機能しなければ、組織の修復は滞ってしまいます。
しかし、炎症が必要以上に強い場合や持続する場合は、炎症の本来の目的からは外れてしまい、体にとって悪影響を及ぼすようになります。
このような炎症を、病的炎症、あるいは慢性炎症とよびます。
この慢性炎症の例としては、関節リウマチが挙げられます。
2.炎症の原因
炎症を引き起こす原因には、体の外からの有害な刺激による外因と、体の中の機能異常や傷害による内因の2つがあります。
外因は、物理的因子、化学的因子、生物的因子に分けられます。
物理的因子には、機械的刺激、熱、紫外線などがあります。例としては、打撲、捻挫(靱帯損傷)、火傷などがあります。
化学的因子には、強酸、強アルカリ、有害薬品などがあります。例としては、湿疹、火傷などがあります。
生物的因子には、細菌、ウイルス、寄生虫などがあります。例としては、感染性関節炎、外傷後の化膿などがあります。
内因には、アレルギー、自己免疫異常、代謝異常による炎症物質の産生、臓器の機能異常、ストレス(体に生じた歪み)による組織の破綻などがあります。
自己免疫異常の例としては、アトピー性皮膚炎、関節リウマチなどがあります。
代謝異常の例としては、痛風などがあります。
ストレスの例としては、腱鞘炎、変形性関節症などがあります。
3.炎症の機序
ここからは、炎症の発生と経過、終焉について、お話ししていきます。
組織が損傷を受けると、直ちに炎症が生じ、その中心的役割をなす血管反応がスタートします。
これは、次の3つの過程からなります。
1.血管内径の変化とそれに伴う血流量の変化
2.血管透過性の亢進と滲出液の形成
3.細胞成分の血管外への遊走と細胞性滲出物の形成
その後、
次の2つの過程をたどります。
4.白血球による貪食
5.炎症の終焉
では、これらの炎症の5つの過程を、詳しくお話ししていきます。
3-1.血管内径の変化とそれに伴う血流量の変化
組織損傷は、血管の破損と出血を伴うため、その直後から止血のための反応が生じます。
まず、血管が破損されると、その血管内皮細胞も損傷されます。
すると、血管内皮細胞から、エンドセリンとよばれる化学伝達物質が分泌されます。
このエンドセリンによって、破損した部分とその周囲の血管が、一過性に収縮します。
損傷された血管内皮細胞からは、血小板活性化因子も分泌されます。
すると、それによって活性化された血小板が、破損した血管に集まり、凝血塊(血の固まりが集まったもの)を作ります。
そして、この凝血塊によって、血管の破損された部分が塞がれ、止血されることになります。
また、活性化された血小板からは、セロトニンとよばれる化学伝達物質も分泌されます。
このセロトニンは、エンドセリンと同様に、破損した部分とその周囲の血管を一過性に収縮させます。
このエンドセリンやセロトニンなどによる血管の一過性の収縮は、通常、数秒~数分間持続します。
この血管の一過性の収縮も、血流を低下させたり、血管の破損部を小さくさせたりすることで、凝血塊を作りやすくし、止血に貢献していると思われます。
破損した部分とその周囲の血管は、一過性の収縮に引き続き、拡張が生じます。
この血管の拡張は、組織が損傷されることで引き起こされる血液中の化学反応により生成されるブラジキニンとよばれる化学伝達物質や、ブラジキニンが組織内の肥満細胞を刺激することで生成される
ヒスタミンとよばれる化学伝達物質などが作用することで生じます。
血管が拡張する結果、破損した部分とその周囲の血流量が増加します。
この血流量の増加が、発赤や熱感といった、炎症の徴候を生じさせます。
また、破損した部分とその周囲の血圧も高くなり、血液の水分が血管から染み出る、濾出という現象も生じます。
しかし、この濾出は、次に説明する血管透過性の亢進によって、隠されてしまいます。
この血管の拡張は、通常、数十分~数時間持続します。
3-2.血管透過性の亢進と滲出液の形成
血管の内側は、血管内皮細胞に覆われています。
通常、水や水溶性物質、酸素や二酸化炭素は、血管の内外へ通過できますが、血漿タンパク質(血液に含まれているタンパク質)や細胞は通過できません。
しかし、炎症が生じると、ブラジキニンやヒスタミンなどの働きによって、血管内皮細胞が収縮します。
すると、血管内皮細胞同士の接合部が開くことにより、物質が血管を通過しやすくなります。
つまり、血管透過性が亢進します。
その結果、タンパク質を含んだ血漿成分が血管の外に滲出し、腫脹という炎症の徴候が生じます。
3-3.細胞成分の血管外への遊走と細胞性滲出物の形成
血管透過性が亢進すると、血管内の液体成分が減少します。
すると、血液の粘性が増加し、血流速度が低下します。
そのため、通常は血管の中心部を流れている細胞成分が、血管内壁側に集まる現象(辺縁趨向)が生じます。
細胞成分の一つである白血球は、血管内壁を転がりながら血管内皮細胞に接着し、形を扁平化させて、血管内皮細胞の隙間から血管の外へ通過します。
白血球は、血液に含まれる細胞成分の一つで、主な役目は、血管外に遊出して、組織内に侵入してきた細菌や、異物などを、食作用によって細胞内に取り込み、消化分解して無毒化することです。
白血球は、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球に分類され、それぞれ機能が異なります。
血管外へ出た白血球は、炎症が生じている損傷部位に向かって遊走します。
この現象は、白血球が、損傷部位に出現しているサイトカインとよばれる様々な種類の情報伝達タンパク質に引き寄せられるようにして生じます。
3-4.白血球による貪食
炎症が生じている部位に遊走した白血球のうち、最初に働き出すのは、好中球です。
好中球は、組織に侵入した細菌や細胞の残骸を好中球内に取り込み、好中球内のタンパク質分解酵素や活性酸素によって分解、死滅させます。
なお、好中球は、最終的にアポトーシスを起こし、マクロファージに貪食されます。
アポトーシスとは、細胞がある種の刺激を受けたときに、内在するプログラムによって自発的に死滅する現象です。
マクロファージは、単球が組織に移行して分化したもので、組織に侵入した異物、自己の死細胞、脂肪などを貪食する、大型の食細胞です。
好中球より少し遅れて、マクロファージが損傷部に集まり、アポトーシスを起こした好中球や、組織の残骸、細菌を貪食します。
3-5.炎症の終焉
壊死した細胞の除去が終わると、炎症に関わった化学伝達物質は中和されていきます。
また、血管拡張と血管透過性の亢進もみられなくなり、血流も正常に戻り、滲出していた血漿成分はリンパ管を通って回収されていきます。
マクロファージは、不要となった炎症細胞(白血球や肥満細胞)を貪食し、自らアポトーシスするか、血漿とともにリンパ管を通って、その場を去ります。
このようにして炎症は終焉を迎えます。
炎症の終焉は、組織損傷の場合は、通常、受傷後7~10日でみられます。
炎症の終焉は、同時に組織修復の始まりでもあり、特にマクロファージなどから分泌されるサイトカインが、その橋渡しの役割を担っています。
このことからも、炎症は、生体防御反応として、必要不可欠なものであるといえます。
一方、組織損傷が繰り返して生じる場合や、自己免疫異常による炎症の場合は、組織修復と同時に新たな炎症が始まるため、はっきりとした炎症の終焉は認められません。
つまり、これが慢性炎症であり、その治療には難渋することが多いです。
以上が、炎症の発生、経過、終焉になります。この炎症の最中には、痛みも発生します。次からは、炎症の痛みについて、お話ししていきます。
4.炎症の痛み
炎症の過程では、様々な化学伝達物質が生じます。
この化学伝達物質の中には、痛みを生じさせるものがあります。
炎症の痛みは、その化学伝達物質が、侵害受容器にキャッチされることにより生じます。
つまり、この化学伝達物質により、疼痛という炎症の徴候が生じます。
痛みを生じさせる化学伝達物質には、これまでの説明で登場した、セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミンや、登場していないプロスタグランジンなどがあります。
プロスタグランジンは、白血球、血小板、血管内皮細胞から、いくつかの化学反応を経て生じます。
プロスタグランジンは、単独では痛みを生じさせませんが、ブラジキニンに作用して、痛みを増強させます。
これらの痛みを生じさせる化学伝達物質は、「3-5.炎症の終焉」でも説明したように、壊死した細胞の除去が終わると中和されていきます。
その結果、痛みは消失していきます。
つまり、痛みは、炎症が終われば、消えるのです。
逆に言えば、炎症が終わらなければ、痛みは消えないのです。
「3-5.炎症の終焉」でお話ししたように、炎症が終わるのは、通常、受傷後7~10日です。
ですので、痛みが消えるのも、体を損傷してから7~10日後になります。
したがって、これぐらい痛みが長引くのは、普通のことなのです。
言い方を変えれば、たいていの痛みは、1~2週間で消えるのです。
【炎症のフローチャート】

5.炎症の痛みの治し方
炎症は、体が損傷したら自動的に生じる生理反応です。
ですので、炎症の痛みを治しているのは、いわゆる自然治癒力です。
したがって、炎症の痛みの治し方としては、基本的には何もせず、自然治癒力に委ねることとなります。
もし、炎症の痛みを早く治したいというのであれば、炎症という生理反応を、速やかに完了させれば良いのです。
炎症反応のポイントは、血流量の増加です。血流量を増加させて、多くの白血球を損傷部位に届けることです。
ですので、炎症を早く完了させるためには、血流量が低下しないようにすること、血流量が増加するようなことをすれば良いのです。
具体的には、炎症部位を冷やさず、温めることです。
「アイシング」について
一般的には、「アイシング」といって、熱を持っているところを冷やすことが、良いことだと思われています。
しかしこれは、炎症反応を遅らせることになってしまうのです。
その結果、炎症が長引き、なかなか組織が修復されず、いつまでも痛みが続くことになってしまいます。
ですので、私は「アイシング」はおススメしません。
ただ、「アイシング」にもメリットがあり、冷やすことは、その場の痛みを軽くする作用があります。
ですので、あまりにも痛みが強い場合は、「アイシング」をしても良いかと思います。
ただし、それによって治癒が遅れて痛みが長引くということは、覚悟しておく必要があります。
「アイシング」については、また別の記事でお話ししようと思います。
まとめ
今回の記事で、是非知って頂きたいことは、次の5つです。
1.損傷した体を修復するためには、炎症が必要不可欠
2.炎症による痛みは、炎症が終われば必ず消える
3.炎症による痛みは、通常1~2週間で消える
4.炎症による痛みを治しているのは、自然治癒力
5.炎症による痛みを早く治したいときは、炎症部位を冷やさず温める
炎症は、損傷した体を治すために、必要不可欠なものです。
ですので、炎症を抑え込むようなことは、すべきではありません。
そして炎症は、私たちの意志でコントロールできるものではありません。自然治癒力によるものなのです。
ですので、再度お伝えしますが、炎症の痛みの治し方としては、基本的には何もしない、ということになります。
もし、炎症による痛みを早く治したいのであれば、私たちのすべきこととしては、冷やさず温めて、しっかり炎症させてあげることです。
筋力トレーニングやストレッチをして、炎症の痛みが早く治るわけではありませんので、ご注意下さいね。(^^)/
股関節、腰、膝の痛みセラピー
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ふなこしのりひろ
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